
使い手を美しく映し、同時に使い手の暮らしに快適さや便利さをもたらす。デザインに課せられた命題は実に高邁で素晴らしいものだと言えます。しかし、実際に私たちの周囲を見回してみますと、さまざまな人々が空港や駅で立ち往生したり、生活用品の使いにくさに辟易としている場面に出会います。どうしてこのようなことが起きてしまうのでしょうか?どうやらそこには、環境や製品のデザインが一部の使い手にとっては使いにくいという問題が潜んでいるようです。私たち自身、忙しい都市型の暮らしに追われる中で、様々な暮らしのデザインが自分にとってストレスやパニックを引き起こす可能性を持っているものだという事すら忘れてしまいがちです。そういったことから、わたしたちは、さまざまな人々の暮らしの実態を考え、理解する事から始めるのです。
使い手とともに語り合い、気づくデザイン。より多くの使い手がデザインのプロセスに参加することから見えてくるデザイン。小さな「気づき」が私たちトライポッド・デザインの仕事の原点です。
「使い手は実に個性的であり、様々な心を持ち、各々の身体的な特徴を持っています。そして、日々変化しつつ暮らしを営んでいます。」
「私たちは日々、実に多くの誰かがデザインした環境や、モノの中で暮らしています。そのことに慣れてしまった私たちは、デザインが与える影響に気づけないでいます。」
100人のデザイナーが集まれば、100のイスや暮らしが生み出されるかもしれません。しかし、一方でデザインの使い手である人々も百人百様な心身を持ち、個々の暮らしを営んでいます。トライポッド・デザインでは、暮らしを取り巻く様々なデザインが多くの使い手とどのようにして出会い、機能し、また使い手自身もいかにしてデザインされ、暮らしを取り囲んでいる環境やモノに適応しているのかという点に注目してきました。私たちは、様々な使い手1人1人が暮らしの中で、デザインされた対象をどのように認識、理解して使い慣れていくのか、という使い手のデザインに対する適応に深い関心を抱いて来ました。様々な使い手に、使う興味と意欲を抱いてもらえ、心理的にも身体的にもできる限りストレスやパニックを引き起こさないデザイン。常に1人の使い手に対してでさえその個性を尊重するデザイン。同時にそうしたデザインを生み出すに足る意識の醸成やそれらを生み出しやすい環境や仕組み、そしてプロセスを追求する。それが私たちの求めていくべき1人1人の使い手を尊重したデザインの発想であり、まなざしでもあると考えます。
「人類がデザインし創り出した人工物により、私たちの生活環境は大きな負荷を負っています。それは都市や環境問題のみならず、デザインされたモノへの不適応さえもたらします。」
使い手は、実に様々な心や身体を持った人々です。あらかじめ多様な使い手や使い手がおかれた環境を想定したデザインが望まれるべきです。

頭の中で考えた事象を、身体を使って具現化する。デザインは人類が持つすばらしい能力です。しかし、それが誰のためのデザインであるのかと言うことは常に注目する必要があります。
グッドデザインとは何かという問いに答えを出そうとすれば、世界中の使い手に会わなければならないでしょう。トライポッドが取り組んできたデザインのテーマとアプローチには3本の足(トライポッド)があります。
1つはユーザー参加型の双方向的デザインに配慮するインタラクティブデザイン、2つ目は私たちの暮らす環境に配慮したサスティナブルデザイン、そして最後の一つは、あらかじめ様々な使い手に配慮するユニバーサルデザインの3者です。
振り返ると20世紀は工業主義を中心として、社会は様々な場面で便利さと豊かさを訴求し、作り手や売り手は、1つの平均から求めた標準的なデザインを大量につくり出し、普及させる仕組みや構造を加速化させた時代でもありました。そこには、使い手はいつも「若くて健康で右利きの成人男性」といった、曖昧で乱暴な認識が潜在したとも想像できます。
また、使い手と作り手の乖離傾向がその中で進行した時代であったとも言えます。使い手と話もせずにデザインをし、モノを生産する。こうした現象を目の当たりにするにつけて、私たちはあまりにも曖昧で、特定の使い手だけをデザインの対象にしてきたのではないかという自問が生じます。あらかじめ、様々な使い手の存在を理解し、使い手がいかなる環境の中で、何を目的にどのようにそれを使うのか?
トライポッド・デザインが目指すのは、より1人でも多くの使い手を取り込むことができ、また、取り込みたいと願う人々の暮らしに美しく機能し、貢献できるデザインなのです。
トライポッド・デザインでは1992年以来、ユニバーサルデザインを核としたヒューマン・センタード・デザイン(HCD)のデザインプロセスの実践的研究を心がけてきました。そうしたデザインの方法論の研究成果として、3つの対策と方法を講じることにより、一般的なデザインのプロセスを活かしながらも、高いレベルでユニバーサルデザインの意識を反映したデザインとモノづくりを得られる製品や環境に関わる開発手法を作り出せる可能性を得ました。
デザインの使い手となる人々は、あまりに多様で個性的です。その事実によって、私たちはものをつくり出す以前にそうした1人1人の使い手をめぐる心や身体、暮らしぶりを十分聴き取り、観察し、理解しようということを敬遠したり、放棄しがちです。作り手が勝手に使い手を若くて健康であると誤認してしまう場合もあるでしょう。トライポッドでは、社会の高齢化をも意識した独自のユーザーグループを構成して、様々な使い手の意識や身体性にまで及ぶ観察(オブザベーション)や使用の実態調査(フィールド・リサーチ)、あるいは直接のインタビュー(ディープ・インタビュー)を行うといった使い手のさらなる理解に向けた調査・研究手法を開発しました。
環境や製品を巡るデザインの使いやすさを評価するには、様々な使い手に対する想定や配慮が必要となります。様々な心や身体状況におかれた使い手の使う場面を想定し、様々な使い手がどのようにして使う対象となる環境や製品を使っていくのかという使い方やそのシークエンスに対する考察も大切になってきます。こうした、使い手をめぐる環境や暮らしのシーンを想定し、使い方や使いこなしていく過程や状況を考慮した、自らのデザインの評価システムが必要であると考えます。トライポッド・デザインは、ユニバーサルデザインの考え方を導入した自らのデザインに対する評価方法を構築し、デザインの評価にあたっています。
社会のさまざまな人々の意識の傾向を掴みます。
私たちは1994年に初めて自らのデザインのための、使い手による22人の小さな調査グループを設定して、最初の自社製プロダクト、ハンディ・バーディのデザイン開発のための事前調査や観察型評価を開始しました。この経験が契機となって、年々デザインのモニタリング(試用評価)に参加していただける人の輪が広がってきています。現在では一般の使い手を対象にしたインターネットでの意識調査のための調査グループや、実際に商品を生活(試用フィールド)の中で使ってもらう為のグループ、デザインの評価を深掘するためのディープ・インタビューに関わるグループなど、その目的と製品開発の段階に見合った調査、評価が可能なグループにまで成長しつつあります。こうした独自の使い手のグループを構築した成果として、デザインや製品の開発のいかなる段階でも、デザインの評価や検証が可能になりました。